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関数の閉包の凸包と凸包の閉包は等しいか

関数 fの閉包の凸包 \mathrm{cl}(\mathrm{conv}(f))と凸包の閉包 \mathrm{conv}(\mathrm{cl}(f))は等しいとは限らない.
その例を記す.

準備

話を始める前にいくつか定義しておく.

まず, 次のような非負実数だけを集めた集合を定義しておく.


  \begin{align}
    \mathbb{R}_{\geq 0} = \{x : x \geq 0\}
  \end{align}

次に, 関数 fエピグラフ


  \begin{align}
    \mathrm{epi}(f) = \{(x, y) : y \geq f(x)\}
  \end{align}
と定義する.
これは点 xにおける関数値 f(x)よりも上にある値 y \geq f(x) xを組にした集合のことをいう.
イメージとしては次のような感じになる.
関数よりも上にあるところがエピグラフ

また, 集合 Sが凸集合であるとは


  \begin{align}
    \forall x, y \in S, \forall \lambda \in [0, 1]; \lambda x + (1 - \lambda) y \in S
  \end{align}
となることをいう.
これは任意の2点を結んだ線分が含まれるような集合のこといい, 凹みのないような集合を指す.
凸集合
凸でない集合

この凸集合を用いて, 部分集合の凸包 \mathrm{conv}(S)というものを考える.
集合 Sの凸包とは Sを含む最小の凸集合と定義する.

星型の部分を入れたものが四角形領域の凸包

さらに, 集合 Sの閉包 \mathrm{cl}(S) Sを含む最小の閉集合と定義する.
例えば \{x : x > 0\}の閉包は


  \begin{align}
    \mathrm{cl}(\{x : x > 0\}) = \{x : x \geq 0\}
  \end{align}
となる.

これらを用いて関数の凸包と閉包を定義していく.
まず, 関数 fの凸包 \mathrm{conv}(f)とはエピグラフ \mathrm{epi}(f)の凸包 \mathrm{conv}(\mathrm{epi}(f))エピグラフとするような関数のことをいう.

点線部分が凹んでいるので \mathrm{epi}(f)を包む最小となる凸包は実線の部分. これをエピグラフとする関数, つまり, 実線部分を通る関数が \mathrm{conv}(f)

さらに, 関数 fの閉包 \mathrm{cl}(f)とはエピグラフ \mathrm{epi}(f)の閉包 \mathrm{cl}(\mathrm{epi}(f))エピグラフとするような関数のことをいう.

 \mathrm{cl}(\mathrm{conv}(f)) = \mathrm{conv}(\mathrm{cl}(f))?

さて, 以上を定義すると,  \mathrm{cl}(\mathrm{conv}(f)) = \mathrm{conv}(\mathrm{cl}(f))という関係があるのかどうなのかが気になると思う.

しかし, 残念ながらこれは等しいとは限らない.
反例として, 次のような関数 f: \mathbb{R}_{\geq 0} \to \mathbb{R}_{\geq 0}が存在する.


  \begin{align}
    f(x) =
      \begin{cases}
        0 & \text{if } x = 0 \\
        \dfrac{1}{x} & \text{if } x > 0 
      \end{cases}
  \end{align}
 fの形

この関数の \mathrm{cl}(\mathrm{conv}(f))エピグラフは次のような感じになる.

 x軸と y軸の 0以上の部分を含む
対して,  \mathrm{conv}(\mathrm{cl}(f))エピグラフは次のような感じになる.
 \mathrm{cl}(\mathrm{conv}(f))エピグラフから x軸の部分と y軸の部分を除いた形となる

2つを見比べると \mathrm{cl}(\mathrm{conv}(f))エピグラフ x軸と y軸の部分が含まれているのに対し,  \mathrm{conv}(\mathrm{cl}(f))エピグラフはその部分が含まれていない.

よって必ず \mathrm{cl}(\mathrm{conv}(f)) = \mathrm{conv}(\mathrm{cl}(f))となるとは限らないのである.