バージョン管理された人

subversionで管理されてます

balancedとかabsorbingとかsymmetricとか

位相線形空間だと 0の近傍の基本系の中でもbalancedでabsorbingでsymmetricなものを選んでこれる。 わりと悩んだので書いておく。

symmetric

一番簡単だからこれから。 集合 Sに対して


S^{-1} = \{s^{-1} \mid s \in S\}

という集合を定義する。 Sがベクトル空間の部分集合であれば、 S^{-1} -Sと書いたりする。

もし、 Sがこの S^{-1}と等しい、すなわち S = S^{-1}であるとき、 Sをsymmetric setという。 なんか群みたい。 例としては \mathbb{Z}の部分集合 \{-1, 1\}とか \mathbb{R}の部分集合 (-a, a)とか。

symmetricな集合 A, Bの共通部分 A \cap Bはsymmetricになる。 証明は簡単で、 x \in A \cap Bとすると、 x \in Aから -x \in Aで、更に x \in Bから -x \in Bが言えるので -x \in A \cap Bとなるからだ。

absorbing

これを解説するには、まず体 Kに次の公理を満たす関数 |\ast|: K \to \mathbb{R}_{\geq 0}を入れたものを考える必要がある。

  1.  \forall x \in K, |x| \geq 0 \land (|x| = 0 \iff x = 0)
  2.  \forall x, y \in K, |xy| = |x||y|
  3.  \exists c \in \mathbb{R}_{\gt 0}, \forall x, y \in K, |x + y| \leq c \max(|x|, |y|)

このような関数 |\ast|: K \to \mathbb{R}_{\geq 0}が入った体を付値体という。 体に距離が入った感じ。

さらに、体 K上の空間 E

  1.  E \times Eは加法に関して位相可換群
  2.  K \times Eから Eへの写像 (\lambda, x) \mapsto \lambda xが連続

を満たしている必要がある。この空間は左位相線形空間といったりする。

本題だけど、 Kを付値体、 E K上の左位相線形空間として、 A, B \subseteq Eとする。  |\lambda| \geq \alpha \implies \lambda A = \{\lambda a \mid a \in A\} \supseteq Bとなる \alpha > 0が存在するとき、 A Bをabsorbingするというのだけど、さらに Aがどんな Eの一点部分集合もabsorbingするとき、Aをabsorbing setという。 日本語だとabsorbingを併呑というらしい。(ブルバキ, 『数学原論 -位相線形空間-』, 1章1節5項, p.8)

absorbingな集合 A, Bの共通部分 A \cap Bはsymmetric同様absorbingとなる。 証明はsymmetricな場合と比べてちょっと複雑。  A, B \subseteq Eがabsorbingであることから


\forall x \in E, \exists \alpha_A > 0, \forall |\lambda_A| \geq \alpha_A, x \in \alpha_AA


\forall x \in E, \exists \alpha_B > 0, \forall |\lambda_B| \geq \alpha_B, x \in \alpha_BB

なんだけど、 x  \in \alpha_AA, x \in \alpha_BBは書き換えると x \in x / \alpha_A \in A, x \in x / \alpha_B \in B。 だから任意の |\alpha| = \max(\alpha_A, \alpha_B)に対して、 x / \alpha \in A \cap Bとなる。 書き換えると、 x \in \alpha (A \cap B)。 証明終わり。

absorbingな例
absorbingでない例

balanced

これもabsorbingと同じで付値体と左位相線形空間の概念を使う。

肝心の定義だけど、 Kを付値体として、 E K上の左位相線形空間とする。  M \subseteq Eが任意の x \in M |\lambda| \leq 1なる \lambda \in Kにたいして、 \lambda x \in Mとなるとき、すなわち \lambda M \subseteq Mとなるとき、 Mをbalanced setという。 日本語だと均衡らしい。(ブルバキ, 『数学原論 -位相線形空間-』, 1章1節5項, p.7)

実はこいつもsymmetricやabsorbingと同じように共通部分はこの性質を継承する。 証明はいたって簡単。 まず x \in A \cap Bとすると、 |\lambda| \leq 1に対して x\in Aから \lambda x \in A。 同様にして \lambda x \in B。 証明終わり。

アートボード 1
balancedな例
アートボード 1
balancedでない例

近傍の基本系

 \mathcal{B} xの近傍の基本系であるとは xの近傍全体の集合 \mathcal{O}の中でも


\forall U \in \mathcal{O}, \exists V \in \mathcal{B}, V \subseteq U

 \mathcal{B}が満たすことをいう。

なんでこんなものを考えるかというと、一般に近傍ごとにいろんな形があるから、それら全てを扱うのは難しいのだけど、扱い易い性質をもったより小さい近傍がそれらの近傍のなかにあれば、その扱い易い近傍だけを考えればよいので近傍全体を取り扱いやすくなるからだ。

本題

以上から示したい命題は

 0の近傍の基本系 \mathcal{B}の中には全ての V \in \mathcal{B}

  • balanced
  • absorbing
  • symmetric

なものが存在する

まずbalancedから確認しよう。  Eのbalancedな部分集合の共通部分はbalancedだから、任意の M \subseteq Eについて、 Mに含まれる最大のbalancedな集合 Nがある( N = \emptysetとなってしまう可能性があるけど、 0 \in Mなら N = \emptysetとなることはない)。  0の近傍はこのような集合を含むが、その集合自体も 0を含むため、 0の近傍となっている。 以上から、任意の 0の近傍はbalancedな 0の近傍を部分集合として持つことが確かめられた。

次にabsorbingを確認する。 実は任意の 0の近傍 Mはabsorbingとなる。 実際、 x \in Eを初期点とした点列 \left\{x_n = \frac{1}{n}x\right\} n \to \inftyとすると 0へ収束して、 Mはこのような点列の一部を含む(absorbingの定義の一部を A \supseteq \frac{1}{\lambda}Bと書き換えればわかりやすいかも)。

最後にsymmetricとなるかを確認しようと思うが、実はこいつは前のabsorbinでbalancedなものを取れるという事実から簡単に示すことができる。 0の近傍を Mとしておくと、

  1. balancedから \forall x \in M, -x \in Mだけど、これはつまり -M \subseteq M
  2. absorbingから -M \supseteq M

2つあわせて -M = M。 証明終わり。